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【考察】凪良ゆう「美しい彼」衝撃的だった!面白い理由を物語の法則から解説

凪良ゆうの「美しい彼」を読んだ。衝撃が鳴りやまない。
感想を書きなぐって、頭から「美しい彼」追い出さないと生活に支障がそうなので、読んだ勢いで書いていく。
ちょっと信じられないくらい面白かった。そりゃドラマ・映画、メディアミックスされるわ…。
こんな本を10年も知らずにいたとは…。

※注意※ネタバレ全開です

ネタバレ全開で語っています。
なお、4巻あるうちまだ1巻「美しい彼」しか読んでないです。
2巻以降は何も知らないです。その状態で書きなぐっています。いや、2巻以降読んだらこの熱が冷めそうで…

もにか

あと、BLは普段一切読まないので、「BLだったら当たり前」みたいな的外れなことを書いているかもです。でもゆるして。

美しい彼シリーズ(小説)

スクロールできます
タイトル美しい彼
発売日2014年12月
タイトル憎らしい彼: 美しい彼2
発売日2016年12月
タイトル悩ましい彼 美しい彼3
作者2019年7
タイトル儘ならない彼 美しい彼4
作者2024年10月
タイトルnterlude 美しい彼番外編集
作者2021年9月
目次

「美しい彼」が面白すぎる理由4つ

最近、「面白い物語はなぜ面白いのか?」が気になり、ハリウッドの脚本解説、みたいな本をよく読んでいる。
せっかくなので、「美しい彼」はなぜ面白いのか?を「物語の構造」からひも解いていこうと思うよ!

【魅力1】主人公の変容具合が振り切れている

この本の主人公は平良だが、物語における実質的な主人公は清居だ。
なぜなら、物語の主人公=最も変容する人物というセオリーがあるからだ。
(ハリウッド映画の脚本術的にはアークと呼ぶけど、あまり馴染みがないので変容ってするね)

「変容」と書いたのは、大きな意味での「変化」ということ。
よくあるのは主人公の「成長」だけど、成長と書くと意味が固定されてしまうので、変容としている。
要は、物語の冒頭とラストで、大きく変わる人物ってことだ。

それでいうと、平良は冒頭からラストまで一貫して清居が大好きだ。
それは彼の魅力だが、主人公とした場合、全然変容していない。

対して、清居の変容具合はメーターが振り切れている。
清居→平良に対して、【冒頭】価値なしから【ラスト】感情がぐちゃぐちゃになるくらい好きまで
マイナスから測定不能レベルまで「変化」している。

この変容具合が、大きければ大きいほど、読者のカタルシスがでかい(らしい)
でも、ストーリーがご都合主義だったり、感情の動きに違和感があると、読者は感情移入できない。だけど、「美しい彼」はその辺がめっちゃ上手く流れている。

もにか

いや、フィクションなのでリアルか?と言われると
冷静に考えれば「いや、そんなことある…?」となる場面もあるけど、
面白い物語ってその辺が気にならなくなるんだよな。


清居のぐちゃぐちゃ具合の尊さよ…

Amazonのレビューでも「終盤の清居のぐちゃぐちゃが最高」はよく見る感想。いや、わかる…わかるよ…!!!!

じゃあ、なぜ最高に面白いのか?(本人はかっこ悪すぎる醜態をさらして最低だと思うが…)
それは、感情がぐちゃぐちゃ=素を晒すことだからだ。そして、人間は素の状態が一番魅力的だからだ。
そして、それは何重にもぐるぐるにまかれた鎧をまとった人(=素が見えない)が、苦労の末、ようやく、もしくは追い詰められてどうしようもなくなり、ぎりぎりのところで脱いだ素こそ最高だ。

そんなことはみんな知ってる。でも、素を晒すことは怖い。だからこそ惹かれる。

なので、最後告白する(=素を出す)のは必然的に清居のほうになるだろうなとは途中から思っていた。
だって、平良は作中ほぼ素だったからだ。(少なくとも読者側からして)
清居がメーター振り切れ変容を見せてくれる一方で、平良は一貫して清居の重度ファンだ。これもめちゃくちゃスパイスが効いている!

もにか

平良の一貫性は、物語の補助線だ。彼がずっとピュアピュアで清居を「直線的」に追いかけているからこそ、清居の「ぐちゃぐちゃ曲線」が輝きを放つんだね…最高か…

【魅力2】構成が美しい。芸術的ですらある

(1)平良→清居への視点切り替えが素晴らしすぎる

ミッドポイントで視点が、平良から清居に切り替わるのだ。これがめっちゃ良い…!

ミッドポイントとは、簡単に言えば「物語のほぼ中間に位置する転換点」のことだ。
ミッドポイントの前後では、展開ががらっと変わることが多い。
小説っていうよりは、映画でよく見る構成だと思う。
ハリウッド映画やディズニー映画は、ほぼど真ん中でミッドポイントがおかれていることが多い。

「美しい彼」は、前半は平良視点で一貫して、清居=神のような手の届かない存在として描かれていた。
で、ミッドポイントを挟み、そこから清居視点に代わる。すると、これまで(読者としても)遠い存在だった清居が急に生の声で語りだす。

実質的な主人公=清居なので、最初から最後まで清居視点で書くこともできて、その場合でもめちゃ面白くなったと思うけど、この視点変更があることで、佳作→大名作くらいに変わっていると思う。

なぜかというと、【魅力1】にも通じるところがあるが、前半が平良視点なので、
清居の感情スタートがマイナス(に見える)なんだよね。これが、最初から最後まで清居視点だった場合、意外と彼も高校時代から平良に惹かれていたので、スタートがマイナスにならない。

(2)後半、清居パートがずっと面白い

そのままなんだけど、後半、清居パートはずっと面白かった。
でも、これも前半の平良視点があったからこそ。
清居パートは、高校時代~大学で再開するまでの、平良パートの種明かしになっています。

ちょっと似たような例がぱっと思い浮かばないけど、
映画「カメラをとめるな」(前半は作中の映画シーン、後半は作中映画の撮影裏が種明かしされる)のように、「この時はこうだったのね!」という一種の種明かしのように楽しめました。

【魅力3】主人公(清居)の欠点ゆえのもどかしさよ…

魅力的な主人公には必ず「欠点」があります。
欠点=それがあるゆえに、目的到達を難しくしているもの。状況をややこしくしているもの、って感じです。
物語における欠点というのは、必ずしも悪い意味だけではないです。

で、主人公は物語を通して、大抵以下のように変容していきます。

  • 主人公は最初、欠点を克服しようとは思っていない
  • ミッドポイント(転換点)を通り、ようやく「この欠点を克服しなければ、勝利できないのでは…?」と薄々気が付く
  • しかし、なかなか欠点は克服できない。欠点は手ごわいのだ。
  • クライマックス、追い詰められた主人公はどうしようもなくなり最後に欠点をなんとか克服する

「美しい彼」の実質主人公=清居の欠点は「プライドが高すぎて素直になれない」
どうですか?↑の流れは、ものすごく綺麗に清居のことでは?

もにか

余談だけど、欠点=性格ではないんだよね。
清居の欠点は「プライドが高すぎて素直になれない」だけど、それは性格とはちょっと違う。
だから最後、感情ぐちゃぐちゃな状態で告白するという最高にかっこ悪い(読者としては最高に面白い)克服の仕方をしたけど、彼の性格が変わったわけではないのがいいよね。

【魅力4】平良と清居の唯一無二感

物語、特にラブストーリーでは、主人公と相手が恋に落ちるわけだけど、フィクションとはいえ必然性がほしいよね。
その必然性は、唯一無二感ともいえる。「(お互いが)相手じゃないとだめなんだ」ってやつ。

ラブストーリーでは唯一無二な相手は以下の要素を備えている。

  • 相手は自分のぽっかり空いた穴をぴったり埋めてくれる存在
  • その穴は複雑な形をしており、彼(or彼女)じゃなきゃ埋められない
  • その穴が空いた原因の感情を満たしてくれる
  • 原因の感情とは大抵「(過去において)言いたくても言えなかったこと」だ

悪い例


金に困った主人公がいる。
金がないと、明日から暮らしていけない、どうしよう…生きていけない。(=ぽっかりあいた穴)
そこへ、「じゃあ明日から暮らしていける金を与えよう」という相手が現れる。
主人公は恋に落ちる…かというと、そうではない。
なぜなら、相手に必然性がないからだ。穴が大きすぎて「金を持っている相手」なら誰でもいいのでは?となってしまう。

で、「美しい彼」の場合、作中でも清居が自ら語ったように「需要と供給が完全に合致」している。
清居の空いた穴を埋められるのは、完全な自分のファンのみだ。そして、平良は完璧な状態でそれを差し出すことができる。

清居の空いた穴の原因となった感情は、清居が子供のころ言いたかったこと(でも言えなかったこと)=「俺のことを見て」だ。で、平良はそれを叶えてくれる存在だ。
ってことで、清居は平良じゃなきゃだめなんだね。しかも、軽いファンくらいのファンレベルでは満足できない描写もちゃんと作中ででている。

追記

「美しい彼」に衝撃を受けてからこの2カ月、凪良ゆう作品を片っ端から読み、他のBL漫画も読んでる。
が、この唯一無二感・需要と共有の完全一致・凹凸・破れ鍋に綴蓋、がこんなにも違和感なく美しく描かれてるのは「美しい彼」な気がする。

BLって男同士なわけじゃん。それって(少なくとも現代日本を舞台にした場合)相当なリスクを背負って一緒にいる選択をするわけでしょ。
そこには必然性が欲しいよね。でも、他のBL作品はその必然性・理由が薄いのが結構ある。いや、そこが読みたいんだってば!

余談:「美しい彼」にたどり着いた理由

作者の「凪良ゆう」という名前は前から知っていた。本屋大賞2年受賞の一般文芸人気作家として。
私は海外文学のほうが好きで、国内の一般文芸はあまり読まない。人気作家なんだな~くらいの印象だった。
ふと、2回も受賞してるってどんだけ面白いんだ…恩田陸よりすごいのか??と気になり、検索したところBLらしき表紙のサムネイルに目を引かれた。しかも、評価が異様に高い。「へ~凪良ゆうってBLも書いてるんだ~どれどれ」と軽い気持ちで買った。

BLは中高時代に一瞬触れたが、特にハマらなかった。惚れた腫れたの恋愛よりも、SFとかファンタジーのほうが好きだった。
「美しい彼」が早速Amazonから届き、先に荷物を開封した夫から「見ちゃいけないものを見てしまった…」とドン引きされた。

BLというからには、濡れ場もあるんだろうな…?とぱらぱらとめくり、
終盤でそれっぽいシーンがあることを最初に確認してから(あ、やっぱそうだよね)、冒頭に戻って読んだ。
冒頭、平良と清居が出会った当初の話を読んで、あまりの温度差に「え…これが最終的にあの終盤につながるのか…?」となり、そこから急に興味がわいた。

視点切り替え、清居パートからは笑いが止まらなかった。
もちろん、面白おかしくて笑うって意味ではなく、なんというか
「自分の予想の範囲をメーターが振り切れると笑ってしまう」というほうだ。

まとめ

「美しい彼」が面白すぎる理由

  • 【魅力1】主人公の変容具合が振り切れている
  • 【魅力2】構成が美しい。芸術的ですらある
  • 【魅力3】主人公(清居)の欠点ゆえのもどかしさ
  • 【魅力4】平良と清居の唯一無二感


で、この【魅力1234】を下支えしているのが凪良ゆうの文章の巧さと、どこかユーモアがある語り口なのかなと。
最初、あらすじを見たときは「スクールカーストかぁ~主人公吃音持ちでカースト最下位じゃ、暗くなりそう…」と思っていたけど、平良はいろいろな意味でメーターが振り切れており、じめじめした感じもなく、純粋に楽しめたのがすごく良かった…!

ごちゃごちゃ書いたけど、久しぶりに衝撃を受けた本でした…!
これ、もう1巻時点で完結している(=物語として完成されている)と思うんだけど、ここから2巻以降に続くの…?と言う感じです。

ああ、とりあえず今思いつくことは全部書けた…(深夜1時半)
これで普段の生活に戻れる…。ここまで読んでくれてありがとうございました…!

美しい彼シリーズ(小説)

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タイトル美しい彼
発売日2014年12月
タイトル憎らしい彼: 美しい彼2
発売日2016年12月
タイトル悩ましい彼 美しい彼3
作者2019年7
タイトル儘ならない彼 美しい彼4
作者2024年10月
タイトルnterlude 美しい彼番外編集
作者2021年9月

追記

その後、「美しい彼」シリーズは原作4巻まで全部読んで、さらにドラマ&映画も見て、ドラマCDも聞いたよ…笑。(もったいなくて番外編はまだ読んでない)

あと、「もしかしてBLって、面白いのでは…?」となり、そこから凪良ゆう作品片っ端から読み漁ってる今。
BL漫画&映画も有名どころから食傷気味になるくらいまで読み漁ったよ…

BL漫画として一旦今読んだ中では、

  • カメレオンはてのひらに恋をする(厘てく)
  • 夜明けの唄(ユノイチカ)
  • ハッピーオブジエンド(おげれつたなか)
  • 窮鼠はチーズの夢を見る(水城せとな)
  • 能美先輩の弁明(大麦こあら)

このあたりが好きだった!

「窮鼠はチーズの夢を見る」とかBLで文学賞あったら芥川賞だよ…(なお、映画も見た。すごかった)

BLというくくりにしていいのかわからないが、映画は「君の名前で僕を呼んで」と「シチリアサマー」がダントツで好き。どっちも北イタリアが舞台で、裏と表のような作品。(「能美先輩の弁明」読んで哲学興味持った人は、「君の名前で僕を呼んで」ぜひ見てほしい。魂の片割れという同じテーマだから!大学時代に受けた哲学の授業がここで活きるとは…)

BLは、日常に潜む絶望感を(第三者目線で、完全なファンタジーとして)味わえるのがすごい良いと思った。
普通の男女恋愛ものよりも、必然的に重い話・魂の救済の話になるのが良いね…。このあたりもまた記事にまとめたい…

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